Newton 2024年8月号
1秒を正確にはかる「原子時計」という新技術
現代は誰もが正確な時計をもち,秒単位で金融取引などが行われるようになった。また,科学的研究でも「時間」は,「長さ」や「重さ」などとともに,重要な物理量(物質の状態や運動などをあらわす量)の一つになった。科学的な研究を行ったり,国際的な取引をしたりするためには,時間の単位を厳密に定義し,定義を共有することが必要になった。
世界各国で使える単位系(単位や単位どうしの関係を定めるためのルール)を制定するという動きが,18世紀のフランスでおきた。この時,長さの単位メートルや重さの単位キログラムなどから構成される単位系「メートル法」が定められた。1875年,メートル法を世界共通の単位系にするという「メートル条約」が各国の間で締結された。メートル法は徐々に世界に浸透していき,現在はそれを発展させた「国際単位系(SI)」が国際標準の単位系になっている。
SIで使われている時間の単位は秒だ。1956年までは,1秒は「1日の86400分の1」だった。ここでいう1日とは,先ほど説明した平均太陽日のことだ。この定義は,1日の平均的な長さを8万6400秒と見積もり,そこから1秒を定義するものだ。
8万6400秒とは,24時間を秒数であらわしたものだ。1日は24時間で1時間は60分なので,1日は24時間×60分=1440分になる。1分は60秒なので,1日を秒に直すと,1440分×60秒=8万6400秒になる。しかし,先ほど説明したように,地球の自転速度は一定ではなく,この定義には不確かさがあることがわかってきた。
そこで1967年に秒の定義は見直され,「セシウム133原子が光を吸収したときに放出する電磁波が,91億9263万1770回振動したとき」が1秒と定義された。この定義の背景には原子が特定の波長をもつ光を当てたときに吸収・放出するという性質を活かし,その振動数を数えて1秒を計測するという技術がある。この技術を「原子時計」とよぶ。新しい定義には,「セシウム133」という原子を利用した「セシウム原子時計」が用いられた。新しい定義によって,1秒の長さは微妙にことなる値となったのである。
国際原子時がもたらした新たな問題
原子時計によって1秒を精密に測定できるようになると,新たな問題も発生した。原子時計によって,「国際原子時(TAI)」という時刻系が生まれた。この時刻系は,1958年1月1日0時0分0秒を原点として,実際の地球の自転を加味せずに世界中の原子時計の平均値にもとづいて時をきざむものだ。原子時計が8万6400秒を数えたら1日,8万6400秒の10倍の86万4000秒を数えたら10日とするものである。
一方,地球の自転速度は一定ではないため,1日(1太陽日)は必ずしも8万6400秒になるわけではない。長期的にみれば地球の自転速度は遅くなる傾向があるので,1日は8万6400秒よりもわずかに長くなる傾向にある。国際原子時を時刻の基準として使った場合,地球の自転を基準につくられる「世界時(UT1)」とずれてしまう。
この問題を解決するために,「協定世界時(UTC)」とよばれる時刻系がつくられ,これが国際的な時刻の基準となった。協定世界時は,国際原子時を世界時に合わせるように調整したものだ。この調整方法として1972年から導入されたものが,「うるう秒」だ。協定世界時と世界時との差が±0.9秒以上はなれないように,協定世界時ではその都度,1秒の「うるう秒」を挿入したり削除したりして,ずれをうめる。
うるう秒による調整はこれまで27回実施され,そのすべてで1秒ずつ挿入されてきた。最後の挿入は2017年1月1日に実施された。日本では午前9時の直前にうるう秒として,午前8時59分“60秒” が追加され,午前9時00分00秒へとつづいた。
画像は,東京都小金井市にある情報通信研究機構の建物で,2015年7月1日にうるう秒が挿入されたときのようすだ。情報通信研究機構には,日本の標準時を決定・維持・供給する「日本標準時グループ」というチームがある。画像の大きなデジタル時計は「日本標準時大型表示装置」とよばれ,うるう秒の挿入時には,一般的な時計では対応していない「8時59分60秒」が表示される。うるう秒が挿入されるときには,この建物の前に多くの見物人が集まるという(朝日新聞社)。
執筆:荒舩良孝