硤合憲三(そあい・けんそう)東京理科大学名誉教授。1950年,広島県生まれ。不斉自己触媒反応および不斉触媒の研究を行う。主に有機化学分野において国際的に高い功績をあげた化学者に贈られる野依賞を2023年に受賞するなど、数多くの賞歴をもつ(写真:Newton Press)。
Newton 板倉:先生,おめでとうございます。
私たちのこの地球に暮らすすべての生命が誕生するために,先生の発見された自己触媒反応である硤合反応,この反応が地球のどこかで起きたおかげで,すべての生命が生まれた。そういうふうに私たちは考えてよいでしょうか?
硤合教授:現実に私どもの反応がどこかで起こったということでは,おそらくないと思います。
ただし,考え方としては,一方の鏡像異性体が自分で自分をつくる。触媒として働いて自己増殖し,一方が多くなる。
そういう意味だと,生命のほうも最初に何かができて,しかも自己増殖するというのは生命特有のことですから。生命のほうも最初,どちらかというと,そっちの有利なほうからどんどん自分で増えていったという筋は考えられるわけですね。
人間もまだ生まれていない頃のことですから,その条件が本当かどうかっていうと,ある意味,誰も知らないわけです。ただ,ストーリーとしては考えられます。
生命が誕生するための自己増殖で何が大事かというと,普通,化学反応では触媒を使いますが,普通の触媒は自分で増えない限り,反応が進むと熱だとか酸だとか塩基だとか,あるいは攪拌で,あと触媒がだんだん散らばって,劣化するか量が減ります。
一方,自己増殖だと生成物が触媒になるので,量が減りません。生き物も結局自己増殖しているから,親が子供を生んで,親はいずれなくなるが,また次の子供ができる。そういう点では,自己増殖というのは本質的に,あるものが,それは物質でもいいですが,長く続くためには非常に都合のいいシステムになりますよね。
だから,そういう意味を兼ねている反応でありうる,ということです。