ニュートン別冊 時間とは何か 最新版
※本記事は,2026年8月刊行「ニュートン別冊 時間とは何か 最新版」を再編集したものです。内容は刊行当時の情報に基づきます。
自己責任を回避する「自我防衛機制」
「わかっていたのに,レポートや書類のしめ切りに間に合わない」,「明日から試験なのに,試験範囲の勉強が終わっていない」―――。
このように,だいぶ前から,あらかじめ知らされていたにもかかわらず,そのしめ切りに間に合わない,あるいは,間に合ったとしてもギリギリになってしまう・・・・・・。自分のこんな性分に悩んだことのある人は少なくないだろう。
実は,この「しめ切りに間に合わせられない」というのは,心理学者の間でよく知られている人間にありがちな行動パターンだ。間に合わなかった背景には,「自我防衛機制」がはたらくことによる選択や行動の先のばしがある。
自我防衛機制は心理学の用語で,不安やストレス下において,無意識のうちに自分を守ろうとする戦略,手段,行動などを採用する自我のはたらきのことだ。自我防衛機制がはたらく理由の一つに,「自分の価値を下げないため」というものがある。何らかのしめ切りを目の前にしたとき,積極的に「ある行動」を選択して結果が失敗に終われば,「自分の価値が下がる」という結果を引き受けることになる。
冒頭の例にしたがえば,しめ切りに向けて勉強や仕事をしようとすると,いろいろな段階で選択をせまられることになる。そのつど,積極的に「何か」を選択して行動したのに最後に失敗したとなれば,「あのときの自分の選択が悪かったのだ」と,自分の価値を下げることになってしまう。
ところが,あえて選択や行動を先のばしにして積極的に「何か」を選択しなければ,つまり,何の選択もせずに,なりゆきにまかせれば,最後に失敗したとしても「自分で何の選択も判断もしていないので,自分に能力がなかったわけではない」という言い訳がなりたつ。
私たちには,このような心理が無意識のうちにはたらくことが少なくなく,そのようなときには「何か」を選択することや,選択した行動を実行することを先のばししがちになるのだ。千葉大学大学院人文科学研究院の一川誠教授によれば,この自我防衛機制は誰にでもおきる可能性がある一方で,みずからの力で打ち破ることもできるという。
次ページでは,脳の心理特性を逆手に取り,しめ切りに打ち勝つための“処方箋”をお届けする。
監修名:一川誠
千葉大学大学院人文科学研究院教授
執筆名:西村尚子