Newton 2021年6月号
新型コロナウイルスのワクチン接種が,日本でもはじまった。2021年3月時点で日本で承認されている,アメリカのファイザー社とドイツのビオンテック社が共同開発したワクチンは,「RNAワクチン」という,はじめて承認されたタイプのワクチンだ。
このワクチンはこれまでのワクチンと何がことなり,どのような特徴があるのだろうか。
RNAワクチンは開発のスピードが速い
ワクチンとは,体に免疫応答をおこし,病原体の感染を予防する医薬品である。体に免疫応答をおこす物質は「抗原」とよばれ,従来のワクチンは,弱毒化させた病原体を抗原として利用するもの(生ワクチン)と,病原体やその一部を不活化し,抗原として利用するもの(不活化ワクチン)が主流だった。
新型コロナのワクチンとしてはじめて承認された,新しい種類のワクチンが「核酸ワクチン」だ。核酸ワクチンでは,まず,抗原(新型コロナの場合,ウイルス表面の「スパイクタンパク質」とよばれる突起)をつくりだす“指示書” が書きこまれたDNA(デオキシリボ核酸)やRNA(リボ核酸)などの核酸を人工的に合成する(下のイラスト)。
新型コロナウイルスに対するRNAワクチンのつくり方
新型コロナウイルスの表面に存在する「スパイクタンパク質」という突起は,ウイルスが細胞に感染する際に重要な役割をはたす。ウイルスの遺伝情報を解析し,その情報をもとに,スパイクタンパク質の遺伝子をもつ特殊なRNAを合成する。つづいてRNAを細胞に取りこませやすくするために,脂質粒子に包んだあと,体に投与する。すると,体の中でスパイクタンパク質がつくられ免疫応答がおき,新型コロナウイルスによる重症化を予防できる。
核酸ワクチンを投与すると,核酸に書きこまれた指示にしたがって体の中で抗原がつくりだされ,免疫応答がおきるのだ。
核酸ワクチンが今回はじめて実用化された背景には,パンデミックでワクチン開発にスピード感が求められていたことが一因にある。
生ワクチンや不活化ワクチンは,ウイルスの弱毒化や不活化が不十分だと,ワクチン自体が毒性をもってしまう。そのため,製造の条件を慎重に決める必要があり,時間がかかる。一方,核酸ワクチンは,ウイルスの遺伝情報さえわかれば,不活化の過程もなく比較的開発が容易なのだ。
監修名:片山和彦
北里大学大学院感染制御科学府ワクチン学研究室教授
執筆名:山本尚恵