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Newton 2023年8月号

Newton 2023年8月号

発売日:2023年06月26日

価格:1,190円(税込)

ページ数:144ページ

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2023年現在,生命が発見されているのは地球だけです。「生命はどのようにして誕生したのか?」「地球に生命が存在することはどれくらいめずらしいことなのか?」研究者たちは,これらの謎について長年考えてきました。

これらの謎について考えるうち,ある事実が浮かび上がりました。太陽系,そして宇宙は,生命の誕生にとってあまりに都合よくできているのです。太陽と地球の距離,太陽系の惑星の構成,あるいは宇宙を形づくる素粒子の性質や物理法則など,すべてが巧妙に “微調整” されているかのようです(くわしくは下)。もし何かの値や性質がわずかでもちがっていたら,地球に生命は出現していなかったはずなのです。

これはいったいどういうことでしょうか? 私たち生命は奇跡的な偶然の末に誕生したのでしょうか? あるいは,必然的に生命を誕生させる,未知の理論があるのでしょうか?

宇宙が都合がよいのは当然と考える「人間原理」

たんなる偶然と考えることはもちろん可能です。しかし,そう考えてもやや不自然なほど,宇宙は都合よくつくられています。しかし一方で,宇宙の誕生に関する理論はまだ完成しておらず,またそこから生命の誕生が必然的にみちびかれるかどうかもわかりません。さらに,「宇宙自身が生命を生みだす意志をもっている」や「(神などの)見えない知的存在がそのように宇宙をデザインした」といった考えは科学的とはいえません。

そこでもちだされる考え方として「人間原理」があります。人間原理とは,「人間(生命)が観測した宇宙が都合よくできているのは当然だ。そうでなければ,人間自体がいないのだから」という考え方のことです。

これだけ聞くと,やや投げやりな考え方にも思えるでしょう。また人間原理だけでは,なぜ宇宙が人間に都合よくできているのか,という疑問に答えることもできません。しかし実は,ここに一つの理論を加えることで,説得力のある説明をすることができるようになります。その理論とは,「マルチバース理論」です。マルチバース理論については、こちらの記事でくわしく紹介しています。

 

太陽系の幸運

幸運①:地球が太陽のハビタブルゾーンに入っている

生命の誕生のためには,液体の水が不可欠だと考えられています。ある恒星の周囲で,惑星に水が液体として存在できる領域のことを「ハビタブルゾーン」といいます。

太陽系の場合では,太陽から地球までの距離を1とすると,ハビタブルゾーンは0.95〜1.5程度と見積もられています。太陽から最も遠い海王星の軌道までの距離は,太陽から地球までの距離の約30倍です。

これだけ広い範囲に惑星が存在している中で,地球が太陽のハビタブルゾーン内に存在していることは,非常に幸運だといえるでしょう。

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幸運②:地球の大きさがちょうどよい

もしも地球の半径が今の半分程度だと,地球の水は現在までに失われてしまっていた可能性が高いという見積もりがあります。これは,惑星が小さいと大気を引きつけるための重力が小さく,大気中の水蒸気が失われやすくなってしまうことによります。

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幸運③:太陽系に巨大なガス惑星が二つしかない

太陽系には,木星と土星という巨大なガス惑星が二つあります。巨大ガス惑星は強い重力によって周囲の天体の軌道に影響をおよぼすことが知られており,もしも三つめの巨大ガス惑星が存在していたら,地球の軌道が乱れて太陽系から放りだされたり,太陽に飲みこまれたりしていた可能性もあるとされます。

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幸運④:月の直径が大きい

月は直径が地球の約4分の1ほどあります。惑星に対して衛星がこれほど大きいのは太陽系では地球だけで,この巨大な月のおかげで地球の自転軸のふらつきは小さくおさえられていると考えられています。自転軸が大きくふらつくと気候の変動がはげしくなり,生命の生存に適しにくくなります。

幸運⑤:太陽の寿命が長い

太陽のような恒星の寿命はその質量によって決まり,質量が重いほど寿命が短いことが知られています。太陽は比較的質量が小さく,そのため寿命の長い恒星です(約100億年)。もしも太陽の質量が2倍あったとすると,その寿命は10億〜20億年程度でつきるはずだといいます。すると太陽はすでにその寿命を終えており,人類が誕生するよりもはるか前に燃えつきてしまっていたはずです。

 

生命は “幸運” である

生命の存在にとって幸運だと考えられる,太陽系や宇宙全体のさまざまな事象を列挙しました。ほかにも,「重力が電磁気力にくらべて非常に小さいこと」「空間が3次元であること」など,さまざまな “幸運” の結果として,生命が誕生したと考えられます。これはほんとうに,ただの “幸運” なのでしょうか?

 

宇宙の幸運

幸運①:炭素原子がうまく合成された

炭素原子は生命体のさまざまな部分で使われている元素で,地球の生命にとっては必要不可欠です。炭素の原子核がつくられるためには,ヘリウムの原子核が合計で三つ衝突する必要があります。まずヘリウム2個からベリリウム原子核がつくられ,そのベリリウム原子核が崩壊する前に3個めのヘリウム原子核が衝突して炭素原子核ができ,さらにその炭素原子核が十分に安定でなくてはなりません。

幸い,ベリリウ原子核の寿命は比較的長く,炭素原子核にも「共鳴状態」という安定な状態が存在します。炭素原子核が共鳴状態をもつためには,陽子や中性子を結びつける「強い力」の強さが絶妙なバランスをとる必要があり,炭素原子が合成されたのはまさに幸運といえます。

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幸運②:「強い力」の大きさがちょうどよい

強い力が影響をおよぼすのは炭素原子の合成だけではありません。もしも強い力が今よりも約10%程度弱かったとすると,宇宙の初期段階でヘリウム原子核以上に重い原子がつくられず,宇宙にはほぼ水素ガスだけがただようことになります。すると輝く恒星はつくられず,暗い星ばかりが存在する宇宙になってしまいます。

逆に強い力が今よりも数%程度強いと,本来は電気的な反発力によって結合しないはずの陽子2個が結合し,「2重陽子」とよばれる粒子がつくられます。すると,水素原子核がほとんどこの2重陽子に変換されることとなり,宇宙に水素が存在しなくなってしまいます。これでは水は存在できません。

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幸運③:中性子が陽子よりもわずかに重い

陽子と中性子はほぼ同じ質量をもちますが,中性子のほうが0.15%ほど重いことが知られています。現在宇宙に存在する元素のうち約9割が水素ですが,実は陽子と中性子の質量が同じだと,宇宙初期におきる反応のちがいによって,水素ではなくヘリウムが宇宙の主成分になると考えられています。

ヘリウムは水素よりも核融合反応が速く進むことが知られており,ヘリウムが主成分だと恒星の寿命が短くなります。そのため,知的生命が生まれる前に宇宙の星が燃え尽きてしまう可能性が高まります。また,陽子が中性子よりも重いと,宇宙がほとんど中性子のガスだけで占められ,銀河や星などは形成されないと考えられています。

わずかではありますが,中性子のほうが重いことが非常に重要なのです。

幸運④:「真空のエネルギー」の密度が理論よりも120けた小さい

宇宙論の分野でとくに問題だとされてきたのが,「真空のエネルギー」の大きさです。真空のエネルギーとは,宇宙からすべての物質を取り去ったときに,空間自体がもつエネルギーのことです。実は,真空のエネルギーを理論的に計算した値と,現実の宇宙膨張をもとに計算した実測値は,まったく一致しないことが知られています。なんと実測値は理論値にくらべて,120けたも小さいのです(120倍ではなく120けた)。

真空のエネルギーは宇宙の膨張や収縮と関連します。そして,その値が少しでも大きいと,宇宙の膨張速度が速くなりすぎて宇宙が低密度になってしまうため,星や銀河が存在できなくなってしまうのです。

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執筆名:中野太郎